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東京高等裁判所 昭和53年(ツ)83号 判決 1979年5月22日

上告人

雨宮康之助

被上告人

大出博

右訴訟代理人

草野多隆

主文

上告人の本訴請求中被上告人に対し金一〇万二二〇四円の支払を求める部分につき、原判決を破棄し、被上告人の控訴を棄却する。

その余の部分に関する上告人の上告を棄却する。

訴訟費用は、第一ないし第三審を通じ、すべて被上告人の負担とする。

理由

上告状及び上告理由書各記載の上告理由について

原判決は、利息金の計算関係を除く請求原因事実全部すなわち、上告人が被上告人を相手として昭和五〇年二月二八日別紙(一)記載のとおりの請求の趣旨を掲げて土地賃料額請求訴訟(東京地方裁判所昭和五〇年(ワ)第三〇八七号)を東京地方裁判所に提起したこと、右事件につき昭和五一年一二月九日別紙(二)記載のとおりの内容を有する裁判上の和解が成立し、調書に記載され(なおこれにつき昭和五二年二月四日別紙(三)のとおりの更正決定がなされ確定した。)たこと、被上告人が右和解条項に従い、過去の賃料不足額を支払つたことを当事者間に争いなきものとして確定したうえ、借地法第一二条第二項は裁判上の和解によつて、争いある賃料額が確定した場合には、その適用がないし、本件において当事者間に溯つて増額された賃料に対し一割の割合による利息を支払う合意も存在していないとして上告人の利息及びこれに対する遅延損害金の各請求を排斥したものである。

しかしながら裁判上の和解が調書に記載されたときは、その記載は確定判決と同一の効力を有する(民事訴訟法第二〇三条)のであるから、地上権設定者又は土地賃貸人が借地法第一二条第一項の賃料増額請求権を行使し、これを前提として訴訟上争いある賃料額の給付又は確認を求め、右争いある賃料額が裁判上の和解によつて確定され、これが調書に記載されたときには、同条第二項但書の適用があると解するのが相当である。もつとも右但書は「其ノ裁判ガ確定シタル場合ニ於テ」という限定を付しており、裁判上の和解について触れるところがないから、文理解釈として裁判上の和解に右但書の適用がないとの解釈、あるいは、裁判上の和解はその後の裁判によつて無効とされる場合があり、従つて裁判上の和解によつて賃料額が不可争的に確定することはありえないとの理由のもとに同じ解釈をとる余地のあることはもちろんであるが、そもそも賃料増額請求権は一箇の形成権であつて、その行使の時点において正当な額まで賃料を増額する効果を生ずるものであるから、それより以降借地人は増額された賃料額につき債務を負い、弁済期にその一部を支払わなかつたときは債務不履行となり、延いて借地契約解除の危険をも負担する筋合であるが、借地法第一二条第二項は増額請求権行使の効果が裁判により確定するまでは、正当な賃料の額が借地人にとつて事実上不明であることに留意し、一方において右裁判による確定までは借地人を賃料の増額部分不払による借地契約解除の危険から解放するとともに、他方において右確定後に支払われることとなる賃料不足額に対してはその弁済期後の利息の利率を加重することにより、当事者間の衡平を維持したものと解せられるのであつて、事件が裁判上の和解によつて解決した場合においても、その和解に至るまでの間正当な賃料の額が不明であつたという点のみについてみれば、事件が裁判によつて終局した場合となんら異るところはないから、右和解成立に至るまでの間地上権設定者又は賃貸人の側が賃料一部不払による解除権の行使を制限されていたと解するほかはないし、そうであつてみれば、右和解により確定した賃料額を基準として見た場合借地人が支払つた過去の賃料に不足額があるときはこれに対し弁済期後年一割の利息を支払う義務ありとするのが衡平に合致する所以であるというべきである。

してみれば、借地法第一二条第二項は裁判上の和解によつて賃料が確定した場合には適用がないとした原判決には同条の解釈を誤つた違法があり、この違法が判決に影響を及ぼすことはいうまでもないから、論旨は理由がある。そうして前記原判決の確定した事実関係……原判決は本件和解によつて終了した訴訟事件を単に賃料増額請求事件としか表現していないが、その訴訟物が上告人の借地法第一二条第一項の賃料増額請求権行使を理由とする増額された賃料請求権の存否であつたこと及び本件和解が右訴訟物につき互譲の結果成立したものであることをも争いなき事実として確定していると解すべきはもちろんである……のもとにおいては、上告人の被上告人に対する利息金一〇万二二〇四円(賃料延滞部分に対する利息が金一〇万二二〇四円であることは計数上明らかである。)の請求は理由があるから、これを認容した第一審判決は正当であり、被上告人の控訴はこれを棄却すべきところ、第一審判決を取り消して、上告人の右請求をも棄却した原判決は不当であるから、原判決中該部分を破棄したうえ、右部分に関し、被上告人の控訴を棄却することとする。なお、上告人の右利息金に対する遅延損害金の請求については、催告ならびに元本組入れの意思表示のあつたことにつき上告人においてなんらの主張立証をなした形跡がないから、これを失当として棄却すべきであつて、これと結論において同旨の原判決はこの部分については結局正当であつて上告は理由がないから、これを棄却することとする。

よつて民事訴訟法第四〇八条第一号、第三九六条、第三八四条第二項、同条第一項、第九六条、第八九条、第九二条但書を適用して主文のとおり判決する。

(安藤覚 石川義夫 柴田保幸)

別紙(一)  請求の趣旨

(一) 被告は原告に対し本件土地の地代が昭和四七年四月一日から月額金五万円、昭和四八年一二月一日から月額金六万四〇〇〇円であることを確認する。

(二) 訴訟費用は被告の負担とする。

別紙(二)  和解条項

一 原・被告間の別紙目録記載の土地賃貸借契約における月額賃料が、昭和四七年四月一日から昭和四八年一一月三〇日まで金三万〇二三七円(3.3平方メートル当り三六〇円)、昭和五一年一月一日から昭和五二年一二月三一日まで金四万〇五六〇円(3.3平方メートル当り約四八六円)であることを原告と被告はそれぞれ確認する。

二 昭和五三年一月一日以降の賃料については、当事者双方が協議して定めること。

三 被告は原告に対し、昭和四七年四月分から昭和五一年六月分までの右増額賃料と支払賃料との差額合計金四三万二八二五円を原告方に持参または送金して支払うこと。

四 原告はその余の請求を放棄する。

五 訴訟費用は各自の負損とする。

別紙(三)<省略>

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